星岡
ほしがおか
JR阿佐ヶ谷駅北口から徒歩25分ほど。早稲田通りの北側に広がる住宅街の一角に、蔦のからまる塀と丈高い庭木に包まれた、歴史を感じさせる日本家屋が立っています。象形文字で「星岡」と書かれた表札を門柱に掲げるこの屋敷の主は、茶道家の井関脩智(宗脩)先生です。お茶の歴史はもちろん日本の食や陰陽五行でアプローチする年中行事にも詳しく、京都芸術大学で講座を持ち、またNHK大河ドラマ『麒麟がくる』や『晴天を衝け』で茶道指導を担当するなど、多方面で活躍されています。
もともと星岡の主たる事業は、かつて「星岡茶寮」で供されていた料理を教える「星岡日本料理講習会」でした。星岡茶寮で修業し、その後姉妹店「銀茶寮」の料理長を務めた藤本憲一氏が講師を務め、北大路魯山人の味が習えるとあって評判を呼んだそうです。藤本氏は著書『日本料理入門』(柴田書店)の中で星岡茶寮の料理を再現しており、今では貴重な資料といえます。
叔父である藤本氏から星岡を受け継いだ井関先生はその後、料理だけでなくお茶の世界へ間口を広げました。現在星岡では、月替わりの趣向が楽しみな月釜をはじめ茶事教室、茶道教室を開催。さらに井関先生の、その広範な知識と蘊蓄に裏打ちされた解説が楽しみな各種講習会も開かれており、なかでも古代中国の自然哲学である「陰陽五行」と、明治初年に新暦に代わるまで日本で用いられてきた「旧暦」の仕組みをやさしくひもとく「陰陽五行と年中行事」は特に人気があります。
旧暦と結びついた四季折々の行事や習わし。それらは今も私たちの暮らしになくてはならないものです。井関先生はさらに「陰陽五行と旧暦は、とくにお茶の世界に深く組み込まれています」と話します。「長い歴史のなかで家元がつくりあげてきた決まりごとや作法の意味なども、わかりやすく解きほぐしてお話ししています。陰陽五行を語らずしてお茶を語れない、というのが私の信念です」
「陰陽五行と年中行事」の教室は、昼(抹茶とお菓子付き、1回3500円)と夜(星岡茶寮伝統の料理付き、1回6000円)があり、それぞれ月に2〜3回開催されています。詳細はホームページでご確認ください。
大正12年(1923)築の日本家屋は杉並区内でも貴重な存在。風格とともに懐かしさも感じさせます。洋館風の腰折れ屋根がモダン。
玄関までのアプローチ。
すりガラスの引き戸を開けて入る玄関。昭和レトロな照明がよく似合います。
夏ならではの簾戸(すど)が床しい、書院造りの広間(写真は8月)。掛け軸は夏の瀑布を詠んだ有栖川宮熾仁親王の筆です。矢羽根薄、白桔梗、ポンポン菊を琉球ガラスの花瓶に。
広間での茶道教室の様子。歴史を重ねてきた日本家屋ならではの落ち着いた雰囲気のなかで、なごやかに進みます。お茶菓子は茶の湯マップでも紹介している亀屋萬年堂の干菓子です。
茶釜は川邊庄造、風炉釜は作者不明の年代物、平水指は魯山人作の黄瀬戸釉ドラ鉢、風炉先は雲月鵬雲斎好。
井関先生の手になる灰形は美しさが際立っています。
高分子化学の研究職から大転身を遂げた井関脩智先生。「物事の成り立ちを、その源までさかのぼって知りたいと思うのは、私が理系出身だからかもしれませんね」。著書『茶、ちゃ、チャでリフレッシュ』(生活ジャーナル刊)では、科学的アプローチでシニアにお茶の楽しみ方を紹介しています。
「陰陽五行と年中行事」の教室風景。和気藹々とした中にも真剣味が漂います。
星岡茶寮伝統の正月料理を受け継ぐ「星岡のおせち」は、魯山人好みのビールに合う料理を主に約30品を詰め合わせて1人前1万4000円(税込)。1人前から注文を受け付けています(写真は3人前のイメージ)。受け取りは12月31日の朝9時以降に星岡にて。
10月の月釜 風炉の釣り釜 名残りの茶事の設え
風流な蚊取り線香立てが置かれた入り側から、ガラス越しに庭の緑を眺める。思わずほっとため息がでそうな、日本の家ならではの心安まる光景です。
簡素な腰掛が置かれた露地。星岡では茶事貸席もおこなっており、懐石料理も用意できます。
所在地 | 東京都杉並区阿佐谷北6-13-9 |
TEL | 03-3337-9180 |
FAX | 03-5932-6139 |
営業時間 | 8:00〜21:00 |
定休日 | 年中無休 |
アクセス | JR中央線「阿佐ヶ谷駅」北口からタクシー5分/ JR「阿佐ヶ谷駅」「荻窪駅」「中野駅」 または西武新宿線「鷺ノ宮駅」からバス利用 |