大学生による体験レポート
石正園へ伺いました。
文・立教大学茶道部2年 細川夏佳
東京都西東京市の石正園にて、代表の平井孝幸さんに庭造りについてのお話をお伺いしました。代表の平井孝幸さんは、里山の落葉広葉樹を用いて景観をつくる庭園手法「雑木の庭」の名人として知られている方で、「雑木の庭」の創始者であり近代庭園の巨匠・飯田十基氏に師事し作庭を学び始め、そこから50年以上にわたり追究してきたご自身の経験から、と庭造りそれに携わる精神について学ばせていただきました。
庭園を構成する要素の一つである石灯籠についてたくさんのお話を伺い、石灯籠の特徴と歴史を知ることの重要さについて教えていただきました。鎌倉時代や室町時代に作られた石灯籠は「ホゾ」があり、接合部の一方には突起が、一方には窪みがあるという造りになっているため、地震などの揺れに対して強くなっています。しかし、江戸時代になると、ぱっと外から見てわかる装飾ばかりが重要視されるようになり接合面にホゾをつくることが少なくなり、耐震性の低い石灯籠が多くつくられてしまいました。一般的に柚木(ゆのき)型灯籠と呼ばれる平安時代の石灯籠の形は八角形が基調となっていますが、基礎の石が六角形のものがあり、そのようなものは江戸時代に作り直されたものだとわかります。平井さんは石灯籠の研究のために、実際に様々なお寺へ赴いて図面を見たり実物を見て寸法を測ったりして特徴を学ばれ、石灯籠が日本に伝来する前の形を見るために朝鮮半島へ行かれたこともあるそうです。
石正園の敷地内には石灯籠の写しが所狭しと並んでいて、平井さんにどこの灯籠の写しなのか、宝珠や火袋のデザイン上の特徴や元の灯籠が作られた時代など、ひとつひとつ解説していただきました。石灯籠が長い歴史の中でどのような特徴をもち、どのような変遷を辿ったのかについて深く理解することで、昔の石灯籠のよいところを現代の庭造りにも活かすことができるとわかりました。
そうした平井さんの庭師としての姿勢は、師である飯田十基氏の教えによるものだと言います。平井さんが飯田さんに弟子入りする際に、「掘り取り」という庭に植える植木の枝をまとめ根元の土ごと掘り出し、縄や布で丸く包んで運搬できる状態にする作業を1年間するように言われたそうです。野外での長時間にわたる肉体労働はとてもハードなものでしたが、この作業を通して木の扱い方を学び1年では足りないと思いもう1年掘り取りの作業をしたそうです。他にも平井さんは飯田さんから様々な教えを受け、そのどれも簡単に実行できることではありませんが、全てに目的があり長い時間をかけて体得していくことが専門性を高める、ということなのだと思いました。
石灯籠を作るには、残っている石灯籠の寸法を測り図面を書いて職人さんにお願いして作ってもらうのが一般的な流れだそうですが、できたものを見ると寸法通りであっても数ミリの修正点が見つかり、その石灯籠のひと削りが庭全体の完成度に影響を及ぼすそうです。そのような微妙な違いに気づくことができるのも、様々な庭を見て学び蓄積された膨大な知識と経験の成せる業なのだと思いました。
「50歳を越えてから良い仕事ができるようになる」と平井さんは言います。それは、成熟するには長い年月がかかる、という意味だけではなく、庭造りを依頼する方との関係性も含んでいるそうです。平井さんが一度お客様に自宅の庭造りを依頼されて作った10年後、同じ方が自宅の敷地を広くしたから新しく庭を作りたいと再びご依頼がありその際に、「この10年でたくさん良いものを見たから、庭も前のものより良いものにしたい」というお客様のご要望に合わせて、より素材やデザインにこだわって庭造りをしたそうです。職人として学びながら長く続けることで、高い専門性を発揮することのできる良い仕事をすることができるとわかりました。
「庭師の中には自分の師匠のする通りに、昔のままの庭を作ることがいいと思っている人もいるけど、今どき新しくできる家は全部モダンでしょう?新しいものに合わせられないと」と平井さんは言います。歴史を学びそれをただ再現するのではなく、それらの良いところは活かして質のいいものを作りながら、洋風な建築にも合う庭をデザインしたり、手入れや補修の容易な材質のものを採用したりするなど、現代に合わせた庭造りをすることも重要だそうです。平井さんは庭師としてのお仕事に生かすため茶道のお稽古にも参加されていて、その中で人間国宝・長野垤志(てつし)による現代的なデザインの茶釜に影響を受け、現在は創作水鉢の制作にも取り組まれているそうです。下の写真の水鉢は、朝鮮の石塔の一部を日本に持ち帰りそれをひっくり返して窪みをあけて水鉢にしたものです。
その他にもさまざまな水鉢を見せていただいたのですが、その中でも一番印象に残っているのは、一面が苔に覆われた水鉢です。苔の上で水滴が光っていて、水鉢に張られた水と相まって全体として普通の水鉢とは異なるしっとりとした趣があり、とても素敵だと思いました。
庭造り、特に石灯籠に関する専門的なお話や、師匠である飯田さんの教え、平井さん自身のご経験やお考えをお伺いし、庭造りという一つのことを追究するために石灯籠の歴史や植木の扱い方、茶道のお稽古など様々な知識や経験が必要であり、その知識を集めて現代でも通用するようなデザインや機能を備えた新しい庭造りに生かしていくことが重要だとわかりました。次に日本庭園を見る際には、石灯籠や水鉢などに注目して見てみたいと思いました。また、いまは大学生として様々なこと学んでいますが、社会に出て仕事をするようになっても学びを続け自分の手掛ける仕事に活かせるような人になりたいと思いました。石正園・平井孝幸さん、ありがとうございました。
住所 | 東京都西東京市新町3-7-2 |
TEL | 0422-52-1058 |
FAX | 0422-53-9647 |
アクセス |
西武新宿線「田無駅」南口から徒歩18分。または北口からタクシー5分 |