懐石 一文字
かいせき いちもんじ
茶事専門の出張料理人として護国寺御用達をいただく廣瀬和彦さんが、茶席以外でも懐石料理を味わってほしいと神楽坂に「懐石一文字」を開いたのは平成17年(2005)のこと。それから十数年を経た令和4年(2022)1月、少し離れた矢来町にある自宅1階を改装し、店を移しました。
赤城神社の前に延びるゆるやかな坂道を下っていくと、店名を小さく染めた白い暖簾をかけた、銅板葺きの屋根の門が見えてきます。敷石に導かれて玄関へ。寄付待合を意識したという前室から靴を脱いで上がる広間が客室です。絨毯の上に4人がけのテーブルが一つ。店というより個人のお宅へ招かれたようで、張り詰めたなかに温かさも感じられます。
廣瀬さんは調理専門学校を卒業後、赤坂の「料亭龍村」に入ります。この、赤坂花柳界指折りと謳われた名料亭における修業時代に茶道と出会い、各界で活躍する教養人、知識人の薫陶を得たそうです。30代で勝どきに看板を出さない店を持ち、出張料理人として独立。さらに勉強と経験を重ね、一期一会の茶会ならではの緊張感も楽しめるまでになりました。
「懐石一文字」では、旬の素材の風味を生かしきる料理はもちろん、美しい器との出会いも楽しみ。廣瀬さんの美意識にかなった骨董や作家物が次々に登場して目を喜ばせてくれます。品書きはなく、昼夜ともにおまかせコースのみ(要予約)。予算は人数に応じて変わり、2人では一人2万5000円〜、4人以上では一人2万円〜が目安です(いずれも税サ別)。
敷石を踏んで玄関へ。庇と雨樋にも銅板が使われています。
建仁寺垣の奥は茶庭です。
電灯の明かりにほの暗く照らされた前室。杉のほかこぶし、えごのきなど、廻り縁や柱の材にも変化をつけています。
京風の落ち着いた造りの広間の床柱は北山磨き丸太、床框は漆呂色磨き。
縁側越しに茶庭が眺められます。
3月の先付の一例。輪切りにして酒塩で蒸した春若いも(春掘りの長いも)に、酒盗に漬けてあぶった北陸の新バチ子、宮城の白魚、茹でた菜の花と土筆をのせ、胡麻ペーストを敷きます。
3月のお造りの一例。青森のヒラメとスミイカに鼈甲ショウガ、ボウフウを添えて。スミイカに施された繊細な切り込みにも職人技が光ります。
燗鍋と朱盃を茶事「千鳥の盃」の設えで。八寸に使う陶器の蓋を載せました。
表情豊かに、巧みな話術でひきつける廣瀬さん。「自分の目を行き届かせて、お客さまに満足していただけるおもてなしをしたくて、ここに移りました。どうぞごゆっくりお過ごしください」
住所 | 東京都新宿区矢来町156 |
TEL | 03-5206-8223 |
FAX | 03-5206-8227 |
営業時間 |
昼12:00〜14:00(入店) 夜18:00〜20:00(入店) |
定休日 |
不定休 |
アクセス |
地下鉄「神楽坂駅」1b出口から徒歩3分 |