一二三会
ひふみかい
商店と民家、こぢんまりしたビルなどが仲良く並ぶ、護国寺裏の通り。その一角に、道行く人の目を引かずにおかない建物があります。土壁に出庇(でびさし)、ガラス戸の奥に白い暖簾(のれん)を下げた外観は、老舗(しにせ)の和菓子屋さん?とも見えますが、さにあらず。ここは裏千家助教授の久保比登美先生が主催する一二三会の稽古場です。石畳の敷かれた玄関先からじかに上がれるのは八畳の広間。その奥にこけら葺きの屋根をのせた三畳台目の小間が控えています。
通りを行き来する人の話し声や、走り抜けるバイクの音が聞こえ、強い風が吹けばガラス戸が鳴る、都内でも希有な町場の茶室。しかしひとたびそこに身を置けば、外の雑音は遠のき、一碗の茶と向き合う静謐(せいひつ)な時間が訪れます。一二三会の活動を通じて「日常に生きる茶道」を探求してきた久保先生は、「たとえば仕事や家庭で問題を抱えていても、お茶を点てれば気持ちが切り替わる。茶室は小宇宙へ繫がる特別な場であるからです」と話します。
神戸市出身の久保先生は20代前半で阪神・淡路大震災に遭遇し、「仮の人生を生きている場合ではない」と強烈に思い、15歳から学んでいた茶道を一生の仕事とすることを決意します。京都の茶道具商に勤め、数年後に東京出店に伴い上京。公共の施設や友人宅で体験茶会を開くなどしたのち、2009年に一二三会を設立しました。稽古内容はお点前と座学、複数人で学び合う花月、最近注目されている立礼(りゅうれい)、そして折々に開く稽古茶事です。茶道の歴史や道具の由来などを教授する座学を取り入れている点も一二三会の特色です(現在はオンラインで実施)。
また、お茶を通して日本の「おもてなし」の文化を学んでほしいという思いから、ビジネスリーダー向けの「おもてなし講座」と、毎月1回全10講座で基本が習得できる「ほっと一服茶」を開催しています。
https://omotenashi-kouza.com
https://hotto-ippuku-cha.localinfo.jp
茶室全景。木造アパートの1階に広間と小間が違和感なく収まっています。一二三会を設立した当時は奥の小間のみでしたがその後、花月ができるように広間を増築しました。
三畳台目の小間。銘木店のオーナーが自社製品のショールームを兼ねて造った本格的な茶室です。
亀甲竹はじめ稀少な銘木を使った水屋。
さり気なく外部と茶室を仕切るステンドグラスは久保先生のお母様の作品。
「お点前の指導は、その人に合った身のこなしを大切にしています。お茶を暮らしに取り入れて、日本文化の奥深さに触れてください」と話す久保先生。
壁一枚隔てた隣家が空いたのを機に、カーペット敷きの現代的な茶室にリフォームしました。床の間も有機的な収納スペースになっています。ここは茶道の歴史や道具について学ぶ座学と、立礼の稽古などに使用されています。
立礼の稽古は月2回、金曜日の9時〜21時(最終入室19時)に行われています。長く通っている方も、まだ日の浅い方もともに過ごす場は、なごやかな中にもきりっとした空気に満たされています。久保先生は立礼について、今後ますます必要とされるお点前の様式であるという信念をお持ちです。「正座ができなくなったからという理由で、お茶をやめてしまうのはもったいない。立礼ならダイニングテーブルでもできます。生涯、お茶を続けられますよ」
三人のお弟子さんにお話を伺いました。一二三会に通い始めて10年を数える小谷野さん(左)は、膝の痛みで座礼がつらくなり、立礼に移りました。稽古の楽しさは座礼のときと変わらないといいます。自営業の柾谷さん(中)は、顧客と差し向かいで気持ちよくお茶が飲めたらいいなと思い、2年ほど前から立礼教室に通っています。小学5年生の名和さんは座礼の教室に通って5年になります。6歳のときに六義園の吹上茶屋で抹茶をいただいた体験から茶道に興味を持ち、お母さんに教室をさがしてもらったそうです。日本文化、わびさびのことなどをもっと知りたいと、まっすぐな瞳で話してくれました。
花月の稽古風景。
七夕茶会の際は、玄関に笹飾りを置きました。
「日常に生きる茶道」の普及のため、久保先生は通常の稽古のほかにもさまざまな活動を展開しています。写真は金王八幡宮(渋谷区)の秋祭でおこなった参拝客に向けた体験会の様子。
茗荷谷駅近くの美容室主催の野点の会では、店の庭でお茶を点てて振る舞いました。
所在地 | 東京都文京区大塚5-41-6 |
メールアドレス | entry@123kai.org |
アクセス | 東京メトロ有楽町線「東池袋駅」または都電荒川線「東池袋四丁目停留所」から徒歩6分/東京メトロ有楽町線「護国寺駅」から徒歩9分 |